ゴールデンな VS
(バーサス)vv B
 

 

          




 こういうアトラクションには、コーナーシンボルとしての丸太組みのタワーや建物が、ところどころに建てられており。そこへと提げられたロープなどをよじ登る、腕力や握力・脚力の運動の他にも、平衡感覚が必要な丸木橋渡りとか、飛石渡りなど、いろいろな種目の運動もコース別に組み合わせられてあり。昨今の子供たちは木登り経験もないとかで、棒登りや雲梯
うんていさえ危険だからと校庭から遊具が消えつつあるそうなので。勇んで出発したものの、手にマメが出来ちゃったようと途中でリタイアする人も少なくはない。ましてや難関コースともなれば、その難易度も結構なもの。
“でも、完走出来たら、ここのグッズが貰えるらしいね。”
 さっきの受付に飾ってあったが、イタリア製のお洒落なカップや人気ブランド製のスポーツウェアなどなどで、
『あ、これって凄いレアものなのよね。』
『そうそう。女優の○○がコレクションしてるって話題になったっしょ?』
 それもあってリピーターが絶えないのだそうで。よくテレビで放映されている“大金目指して体力勝負っ!”とかいう、ゲームものほどの苛酷な障害ものが立ち塞がるよなコースでもなし、週一でやってみて3度目くらいには女性でもクリア出来るようにという調整が、一応は施されているらしいのだが、
「あわわっ。」
 彼らが選んだ“難関コース”の、スタートしてまずはと辿り着いたるコーナーは。太い丸太だけで組まれた“太鼓橋”の二連もの。正円の真半分という、きっちりとした半円形のお山を武骨な丸太を組んで作ってあるため、なかなか急な斜面を登って降りてまた登り…をせねばならなくて。
“これって結構難しいよな。”
 何せ足元が悪すぎる。急な傾斜と、丸太の太さがそのまま生かされた厳ついまでにガッタガタな未整備ぶりには、日頃からあまり運動をしていない人だと足の裏がつってしまいそうなほど。ちゃんと運動しやすい恰好で来たセナではあったが、それでもちょっとは舐めてかかっていたのかも。Gパンでは膝や脚の付け根が堅くって、脚が少ぉし上げにくい。それでも何とか わしわしと登り、さあ次は下りだぞと手摺りに掴まり、橋の斜面を見下ろしたその途端に、
「はややっ。」
 後ろから来た誰かに、とんと軽く背中を突かれてしまったから…焦ったの何の。故意ではなかろうが…こっちにすれば全く心の準備がないままのこと。丸くて安定の悪い足元から、早速にも足裏がすべってしまい、ずざざざ…っと下まで一気に滑り落ちてしまいそうになったものの、

  「…はや?」

 ひやりと総身が凍り、そのまま魂が一瞬どこぞへか飛んでったほどの動転は、背後から がっしと、トレーナーのフードを掴まれての停止状態にある自分を発見したことで終結し、行方不明になるところだった魂も、無事に再び現世へ帰還させられた模様。お腹が覗くほどトレーナーが引っ張られ、その分だけ前のめりになってた態勢を戻したセナの耳へ届いたお声は、
「大丈夫か?」
「進さん。///////
 これもやっぱりの条件反射か。バランスを崩したセナの背中を見ると、ついついフォローの手が出てしまうのが、もはや習慣となっているのかも知れない、U大学アメフト部の新鋭ラインバッカーさん。助かりはしたけれど、あのね?
「進さん、これじゃあ競走になりませんよう。///////
 子供やカノジョへ手を貸してもいい、協力ゾーンがある“ファミリーコース”は隣りだぞと言わんばかり。無表情ながらちょいと冷たい、やっかみ半分のチラリチラチラという目線を感じて、セナが“はやや///////”と真っ赤になったが、
「そうだったな。」
 真後ろにいたお不動様は、さっきの決めごとを守れていないことへも、さして動じてはいない模様。だって彼にしてみれば、

  “小早川の身の危険を、看過する訳には行かないではないか。”

 それでなくともセナは、速さという脚力こそ持っているが、それが強靭さとイコールかというと…ちょっと怪しいくらいに、まだまだ幼い華奢な肢体をしているので。防具さえつけない頼りない姿でふらふらされては、ああ危ないと思った途端、研ぎ澄まされた反射が働き、手だって出ようというもので。頼もしき胸へ大きな手のひらを伏せて、武神様がこっそりとついた溜息が一つ。
“試合中のモードになっていなくて良かった。”
 ………何ですか? そりゃ。下手すりゃ“スピア・タックル”が出てたかもってことですか?(おいおい)それはともかく、
「降りるぞ。」
「あ、はいっ!」
 とりあえず、此処は足場が悪すぎるから“ノーカウント”としようじゃないかということか。背中にフォローの腕を回されたまま、もう1つの太鼓のお山も登って降りて。さてと も一度、仕切り直しの“ヨーイ・ドンっ”で駆け出したお二人さん。数mほど先、今度は縦に二本で渡された丸木橋を、相前後して同時に渡り切り、次に挑むは高めの雲梯。セナにはちょっと高すぎる位置のそれへ、それでも頑張って飛びついて。体を揺すって弾みをつけては、1段飛ばしで進んでいたが、
「あ…。」
 隣りの同じ雲梯を、何と5段飛ばしほどもの効率の良さにて、ほとんど反動をつけないままに、さっさと進んでしまった進さんであり。
「あやや…。」
 これはすっぱりと“腕力の差”が現れた結果だろう。さすがは、ベンチプレスでセナくんを3人くらい軽々と持ち上げられるだろう“力持ち”さん。コースを左右から挟み込む木立ちの、青々とした新緑の中を、あっさりと遠くなってしまった背中についつい呆然としたものの、
“まだまだ、負けないんだからっ。”
 力持ちだけが有利なコースではないのは確かめてあるからと、頑張って後を追う。腕力では到底及ばないが、身軽で機敏な点で頑張ればそこそこ追従出来るかも。ひょいひょいっとリズミカルに水平なハシゴをぶら下がって渡ってくスピードは、この体躯にしては相当な素早さであり、あっと言う間に渡り終えて、先へと駆け出す小さな韋駄天。脚への負担を考えてだろう、固めてはあるが舗装されない土の道。目に優しい緑の木立ちや茂みを脇目に、だだだだだっと勢い良くも軽快に駆けてゆけば、その先で突然“わっ”という歓声が上がった。
「え?」
 何なに…とセナが首を伸ばしたのと、背の高い何本かの丸太が寄り添い合うようになってツリー状になっていた、そのコーナーシンボルの丸太タワーの頂上から…はらりと何かが落ちて来たのがほぼ同時。そしてそして、
「…脆いな。」
 手の中へ残ったロープの端をじっと見つめている大柄な青年が一人。周囲の人垣に取り巻かれて…というか、遠巻きに避けられての輪の中で立っている。
“………もしかして。”
 何だか何だか、凄っごく馴染みのあるよな何かの“予感”がして。ダッシュの加速を落としつつ、その人垣へと近づけば。
“あ、やっぱり。”
 片一方が頂上に金具で“しっかりと”固定されていたらしきロープ。それを手繰って、ロッククライミングを模したツリー登攀をするというコーナーだったらしいのだが。その“しっかりと”だった筈の固定先から、金具ごとロープを引き摺り落として…とゆっか、へし折ってしまったらしき誰かさん。
「あのくらいの体格なら、体重は支え切れるだけの強度がある筈だのに…。」
「耐久性を確認にと引っ張ってたらしいぞ。」
「どういう腕力をしているやら…。」
 掟破りのクラッシャーさんへ、どう声をかけたものかと困惑している係員さんたちの背後から。くすくすと笑いながら、気安く近づいてった小さな人影。
「進さん、さっそく壊しましたね。」
「…うむ。」
 うむじゃないって。それに、その子の屈託のなさは何事? あっけらかんとした会話が始まり、周囲の人々が心の中で様々にツッコミを入れている。
「じゃあ、今から5分、此処で一回休みですからね。」
「判った。」
 じゃ、お先にですvv あくまでもニコニコと嬉しそうに笑ってる男の子が、たかたかと駆けてくのを見送ってから、恐らくは“G-SHOCK”だろう、ダイバータイプの腕時計を腕ごと顔の前へと引っ張りあげた偉丈夫さん。律義にもきっちりと“5分”とやらを計っているらしく、
「…じゃ、じゃあ私たちも進みましょうか。」
「そうだね。ここのツリータワーはパスしたってことで。」
 お客さんたちがさわさわと散り始め、
「今日のトライアルは特別に、此処を通過しないタイムで計測ということとします。」
「皆さん、どうか、新記録へご挑戦下さい。」
 係員も気を取り直して、メガホン片手に周囲へと呼びかけている。そんな彼らが顔を見合わせて呟いたのが、

  「そっか。あれが“お構いなし”で通せって言われてた客か。」
  「ああ、さっきの子とペアでな。」
  「オーナー命令だからな。絶対に妨害しちゃならんぞ。」
  「らじゃ。」

 おやおや? だから、先程のクラッシャー行為へも腰が引けてた方々だったのですかしら? そんな周囲の思惑なんて全く意に介さないままに。

  「……………。」

 ペナルティの5分間が過ぎるのをただただ待っている、一時停止中の鬼神様でございました。






            ◇



 全長は1キロもないコースだが、ポイントごとにツリーや小屋のような丸太組みのコーナーがあり、櫓
やぐらの中に張られたネット状の網に下からしがみつき、スパイダーマンみたいにぶら下がっての前進で渡り切るものとか、お寺の鐘を撞く丸太みたいに両端だけをロープで留めて吊るしてあって、前後に揺れる不安定な一本吊り橋があったりと、なかなかにバラエティ豊かな施設が目白押し。相変わらず、腕力はあまり無いままなセナだったが、せっかくの5分のペナルティ。これを生かさずしてどうしようかと、バランス感覚が物を言うものや、迷路みたいに木組みが入り組んだ中を通り抜けるハウスものなどをてきぱきとこなして、さて。
「おわっ!」
「きゃ〜んっ!」
 お次の難関は何と言っても、傾斜のきつい滑り坂。ここだけは丸太ではなく、児童公園でゾウさんとかカメさん、恐竜さんの形でお馴染みな、石作りの滑り台を兼ねたお山の坂が、無言のままに立ち塞がる。そんなに高くは無さそうに見えるのだが、斜面の角度や滑らかさが微妙に手ごわくて、靴底の砂落とし用のブラシマットが用意されてるほどなのに、勢いをつけて走って来てもなかなか一発で登り切るのは難しい。せめて手掛かりになるロープでも下がっていれば良いのにね。ああほら、他にも進めないって困ってる人がいる。リタイアやパスをするなら、横手に細い抜け道があるのでそっちを回ることになり、ゴールは出来るけれど“完走しました”という記念品は貰えない。いや、記念品はこの際どうでも良いんですけどね。
「ふにゃ〜ん。」
 せっかくペナルティで距離を稼げたのにね。全然上がれないこのままでは、すぐにも追いつかれてしまうこと請け合い。しかも、
“進さんはただ速いってだけじゃあないものね。”
 腕力も馬力もあるし、ガードにと立ち塞がったラインマンとの押し合いになっても、まずは負けない粘り腰だからね。広いスタンスのほんの数歩ほどで、見事あっさりとクリアしてくに違いない。なのになのに、小さなセナくん、体重が軽過ぎるのか、何度挑んでも途中で加速が尽きてはずり落ちるの繰り返し。小さな肩をしょぼんと落とし、へたりと麓に座り込み、
「ボク、ここで遭難しちゃうのかなぁ…。」
 そんな縁起でもないことを呟く始末。
(苦笑)
“進さんもすぐにも追い着いて来そうだし。”
 ついさっき登って降りた丸太のジャングルジムの頂上にて、手前のトーテムポールの群れを結構な勢いでスラロームしていた人影を見たからね。あれ以降は何にも壊さないで
(笑)追って来ている進さんであるのなら、そろそろ姿が見えてもくる頃。どうしたもんかと考えあぐねていたところが…。

  「……………っ☆」

 ぐいっと。トレーナーの背中を鷲掴みにされたから、ドびっくり。お尻が持ち上がるほどにも引っ張り上げられ、えっ?と背後を振り返れば、そこに居たのは…やっぱり見慣れたお姿が。ようやく追い着いた鬼神様が、片手だけにて楽々と、セナの小さな体を掴み上げている。座り込んでいたのを、疲れたとか怪我をしたとか誤解でもされたのかな。トレーナーを上へと引かれて、またまたおヘソが出そうになっているのを両手で引っ張って戻しつつ、何とかその場に立ち上がると、
「あのあの、進さん。」
 ボク、何ともありませんから。先へ追い抜いてって下さいようと、向かい合っての言葉を続けたところが、


  「こんなところに置きっ放しにすると、何処の誰に拾われるか判らんからな。」

  …………… はい?


 冗談抜きの真剣本気。いつだって冗談なんて言わない人だと知ってるし、こちらの冗談も真に受けるほど融通の利かないところが…セナにとっては堪らなく可愛いと思える、純朴なお人。だからして、置きっ放しにすると何処の誰に拾われるか判らん…と彼が心配しているのは、どうやらセナのことらしいなと判ったが。
「あのあの、進さん。///////
 ボクら、競走してませんでしたっけ? 最初に決めた主旨を忘れちゃあいませんかと、ひょこりと小首を傾げて訊いてみれば、
////////。」
 耳の先っぽ、真っ赤にしたまま。困ったように黙りこくってしまった人が、次の瞬間、
「…あやや。///////
 有無をも言わせずとは正にこのこと。ひょいっと担いで…今度は雄々しき肩の上、小さなセナくんを軽々と持ち上げたまま、それは颯爽とすべり台の坂を上っていってしまった進さんであり。

  「…カッコいいvv

   ………ええっ?!

  「やっぱりあのくらい頼もしくも精悍でなきゃあねぇ。」
  「そうそうvv
  「せめて“お姫様抱っこ”くらいは出来なきゃウソでしょう。」

 さすがはこんな施設へと遊びに来た人たちで。スポーツマンらしけりゃあ、行動がちょっこっとばかり常識から逸脱していても気にはならないらしいところが穿ってる。良かったですね、此処ではあんまり“変な人”扱いはされないみたいですよ? 仁王様。
(苦笑)










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